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時効取得による農地の移転
こんにちは。山口市さくらばたけ事務所の司法書士山本崇です。
今回は時効取得による土地の所有権移転について書いてみます。そもそも時効取得って何ですか?という疑問もあるかと思います。時効といってよくイメージするのが刑事事件の公訴時効です。これは犯罪がおこなわれてから一定の期間(犯罪の種類によって異なります)が経過すると、たとえその後に犯人が見つかってもその犯人を起訴することができなくなる=犯人は処罰されずにすむというものです。よくテレビなどで「時効」という言葉が使われる場合、たいていはこの公訴時効のことを言っています。一方、時効取得については不動産登記法上の規定で、もともと民法の取得時効※に基づくものです。民法上の取得時効というのは、ある物(動産や不動産)を一定の期間他人が占有することで、その他人がある物の所有権を取得するというものです。たとえば、他人のパソコンを自分のものだと誤解して10年間自宅で使い続けていると、そのパソコンの所有権はその人に移り、元の所有者がパソコンを返してくれと言えなくなるという制度です。ずいぶんと乱暴な規定ですが、この規定の根本には、権利に眠る者については救済しないという考えがあります。自分の物を他人に占有されたのであれば、きちんと手続きを踏んだうえで取り戻しなさい、それができるのに放置するような人については法律は救済しませんよということです。もちろん、長期間経過したことで、元の所有者が誰であるのかなどの証拠を集めるのが大変なので、ある一定の期間までしか救済しませんよという現実的な考えもあります。
今回、わたしはこの取得時効にもとづいて土地の所有権移転登記をしました。かなり珍しいケースだと思います。私自身初めてでした。
相談者の方が、山口県内の田を所有していましたが、その方は遠方に在住されているうえに農業の経験はありません。問題の田は、ご相談者様の叔父様がかなり以前から自宅で消費するコメや野菜を作るために利用しているとのことです。諸般の事情により詳細な事情は省略しますが、一番のポイントは時効取得による農地の移転のときは、農業委員会の許可が不要となるという点です。売買や贈与などの取引行為による移転の時は農業委員会の許可が必須で、なおかつ取得する人は原則として営農者に限られます。さらに、今回は田が2つあり、1つについては、農地を取得する方が占有を開始した後に登記簿上の所有者に相続が発生していましたが相続登記は未了、もう1つは相続投棄がされているというものでした。このあたりは司法書士試験でよく狙われるところで、現在司法書士試験の勉強をしている事務員の平野さんにはいい勉強になったのではないかと思います。私自身いろいろと調べながら手続きを進めましたが、いい勉強になりました。
ところで、ある金融機関の支店長が言ってましたが、山口のように農地の多いところでは農地の移転もある程度柔軟にできるようにしないと今後土地活用ができなくなると。そうかも知れません。ただ、国の農業政策もあるので難しい問題ではありますが。
※民法上の規定は、「取得時効」で、それに基づいて所有権移転をするという不動産登記法上の規定が「時効取得」です。なお、民法には、一定の期間権利を行使しないでいると、以後その権利を主張できなくなるという「消滅時効」という規定もあります。かなりややこしいですが、全部違う規定です。