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製造物責任法(PL法)のお話
こんにちは。さくらばたけ事務所の司法書士山本崇です。今回は、企業法務関連で、製造物責任法(通称「PL法」といいます。)についてのお話をしてみます。主に製造業をされている方はよく注意しておかないといけない法律です。
若い方だと、物心ついたときからPL法はすでにあったものかも知れませんが、実はこのPL法は割りと新しい法律なのです。国会でこの法律が成立したのは平成6年で、翌平成7年に施行されました。ですので、成人式を迎えたばかりの法律です。法律の内容も実に簡素なもので、全部で6条しかありません。しかし、この6条の条文の中に、それまでになかった企業(製造業者等)の責任を盛り込んだものとなっています。
この法律の一番の要となる条文は第3条で、それまで民法上の不法行為が成立するためには、加害者の故意・過失が必要であったものを大幅に修正し、製造物の欠陥についての責任を企業である製造業者等に課しています。製造物に欠陥があったために消費者の生命・身体や財産に損害があった場合に、それまで規定では、製造業者である企業の故意や過失を被害者あるいは被害者の遺族が主張・立証しなければならなかったのですが、これは非常に困難なことで裁判上で企業の故意・過失が認められることはまれでした。しかし、PL法では、製造物についての欠陥という客観的な要件があれば、企業の責任が認められるため、消費者が損害賠償を求める場合、製造業者が作った製造物に欠陥があった事実を主張・立証すればよいことになりました。これは、あるいみ立証責任の転換といえるもので、それだけ企業の責任が重くなり、逆に消費者の責任は軽くなったと言えます。
こうした面のみを捉えて、PL法が制定されたために企業の責任が極めて重くなり、訴訟大国アメリカのような巨額な賠償金が企業に課せられるのではないかと危惧する声がPL法制定前後からありましたが、実際はそう簡単にはいきません。それは日米の裁判制度を比較してもすぐに分かることなのですが、アメリカでは損害賠償の額を裁判官ではなく陪審員という一般の市民が決めるため被害者である被告に同情して、より多くの賠償金が認められる傾向があります。また、アメリカでは不法行為に対して懲罰的な賠償金を上乗せすることが一般的に認められており、厳密な損害以上の賠償金を被告に課すことができますが、日本では懲罰的な賠償というものは裁判上認められていません。
さらに、重要なのが製造物の欠陥と被害者の損害の因果関係です。民法上、不法行為での損害賠償が認めれれるためには、不法行為と損害の間に因果関係がなければなりません。被告がこうした不法行為をした。その結果原告がこういった損害を被った。その不法行為と損害との間の密接な関連のことを因果関係と言い、これは被害者である原告が裁判上、主張・立証しなければなりません。そして、PL法では、この因果関係について特別な規定を置いていないため、やはり因果関係は被害者である原告が主張・立証しなければならないのです。
たとえば、製薬会社が作った薬を服用したために被害を被ったと言う場合に、一般の消費者である原告が、この薬のどういった成分が自分の体に、どのように作用し被害を被ったのかを立証するのは、非常に困難です。専門家にそうした因果関係の調査を依頼するにしても、製薬会社が作った薬についての情報を十分に明らかにしてくれなければ、やはり推定の域をでません。ですので、PL法が制定されたからといって、即座に企業が常に重い責任を負わされているわけではないのです。
とはいえ、それまで以上に、企業は自分の会社が作る製品についての責任を意識しておかなければなりませんので、新製品を販売する場合は、事前に十分な安全性の検証が必要になってくることは間違いないでしょう。