所有権抹消登記

こんにちは。山口市中河原町の司法書士山本崇です。山口県は新型コロナウィルスによる緊急事態宣言が解除されて1週間経ちました。とりあえずは皆さん落ち着いていますが、依然厳しい状況であることは変わりありません。これからも油断せずに過ごしていきたいと思っています。

今回は所有権に関する変わった登記について紹介します。

所有権に関する登記は通常の場合は、所有権移転か所有権保存のどちらかです。これ以外の所有権に関する登記が日常的におこなわれることはまずありません。しかし、所有権に関する登記の種類は他にもいくつかあります。そのうちの一つが所有権抹消登記です。抹消登記というと、ほとんどの司法書士さんは抵当権抹消か根抵当権抹消を思い出します。ごくまれに地上権抹消登記や地役権抹消登記がおこなわれることがありますが、所有権抹消登記というのはさらにまれな登記だと言えます。所有権というのは、その性質上、ある所有者から別の所有者に相続や売買、贈与などによって次々と移っていくものです。しかし、所有権抹消というのは、ある所有者から以前の所有者へ所有名義が戻る場合の登記となります。どういったときにこうしたことが起こるのでしょうか。

私のところに半年くらい前に来た依頼は次のようなものでした。依頼者(Aさんとします)は現在ある土地建物の所有者ですが、それはAさん自身が住むためのものでも、誰かに貸して賃料を得るためのものでもありません。元々その土地建物の所有者であった人(Bさんとします)が、お金に困っているときに、AさんがBさんにお金を貸してそのカタに不動産の名義をAさんに移しただけでした。現にそこにはBさんが相変わらず住み続けていて、家賃を払うこともないとのこと。こうした場合は、本来であれば抵当権設定登記をするか、譲渡担保による所有権移転登記をするべきなのでしょうが、BさんからBさんへは売買による所有権移転登記がなされています。登記自体はAさん自身がやったそうです。Bさんがお金を返さなければ、Bさんを追い出して不動産を売ってしまうかAさん自身が住むかするつもりだったのでしょう。しかし、Bさんはきちんと借りたお金を全額返したので、不動産の名義をBさんに戻してもらいたいという相談でした。

こうした事情で土地建物の名義をBさんに移すには真正な登記名義の回復による所有権移転登記をおこなえばいいのですが、これだと登録免許税として固定資産税評価額の2.0%を国に納める必要がありますので、Bさんにとっては負担が重いのです。そこで、私は真正な登記名義の回復による所有権抹消登記か合意解除による所有権抹消登記を入れようと考えました。抹消登記であればたとえ所有権に関するものであっても、不動産の個数×1000円の登録免許税で済むためBさんの負担は軽くなります。そして私は依頼内容を検討して真正な登記名義の回復によるよりも合意解除による抹消の方がより事実関係に適合しているように考え、合意解除を原因とするようにしました。

この登記をおこなうにあたってかなり気を使ったのが、登記原因証明情報の作り方です。合意解除を原因とする登記原因証明情報にどのような内容を盛り込むかは、いろいろな資料を調べてみましたが、まったく見つかりません。仕方なく、六法全書で民法の合意解除の条文を抜き出し、それに要件事実をあてはめることによって原因証明情報を自作しました。実際に登記申請をしてからは、法務局から補正の連絡が来るのではないかとヒヤヒヤしましたがそうしたこともなく無事に抹消登記が完了し、依頼とおりの仕事を終えることができほっと一安心しました。

こういうめったにない例外的な依頼についても臆することなく、また失敗することなくこなしていければと願っています。

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