所有者不明土地管理命令のその後

こんにちは。山口市役所近くで司法書士をしている山本崇です。
以前、このブログ上で、私たちの事務所で、ある方(団体)からのご依頼を受けて所有者不明土地管理命令を裁判所に申立てたことを書いたかと思いますが、その後、ようやくその申立てについてのすべての目的が達成されて私たちの業務も完了しましたので、それに至るまでの経過をここに書ける範囲で書いてみようと思います。
今後あるいは今まさに所有者不明土地管理命令について検討されておられる方がいらっしゃいましたらご参考にされてください。

私は、単に所有者不明土地管理命令と書きましたが、所有者の分からない建物もこの制度の対象で、一般には所有者不明土地家屋管理命令といいます。私が、今回ご依頼を受けたのは所有者不明土地についてのみです。時期としましては令和6年の年初だったかと思います。まだ、この制度が始まって1年も経過していない時期で前例もほぼありませんでしたから、裁判所の書記官の方といろいろ調整をしながら手続きを進めていきました。

真に所有者が不明である土地あるいは建物について、所有者不明土地(家屋)管理命令を申立て、管理人を置くように裁判所に認めてもらう事自体は、私の経験上、それほど困難なことではないだろうと感じました。ただ、管理人が裁判所によって選任されたとしても、永久に管理人がその土地を管理することは不可能ですので、いずれかの段階で土地を第三者に売却する必要があるでしょう。土地を売却せずに、有効に活用してくださる方に貸すという方法もありますが、この場合は、管理人は不明所有者の代理人として管理業務を続ける必要があり(たとえば地代の受け取りと管理など)、いつまでたってもその任務から外れることができませんから。

今回私がおこなった手続きの中で一番困難だったのは、所有者不明土地管理人として所有者不明土地を第三者に売却するための許可を裁判所に認めてもらう事でした。私の依頼者の方も今回の土地の売却を前提に、管理命令申立てをご依頼されたので、売却許可がもらえないとほとんど目的を達せない事案でした。なお、最終的に売却を目的としていたのは、ある公益事業の対象区域に問題の所有者不明土地があったため、その土地の所有名義を第三者に確定的に名義変更しないと、その公益事業に取り掛かることができなかったためで、依頼者の方がその土地を売却して何らかの金銭的な利益を受けたいというような考えは一切ありませんでした。

なお、所有者不明土地の売却については管理人の権限で自由にできるものではなく、管理人の通常の管理業務を超えるものとされているため、裁判所に売却のための権限外許可を取る必要があります。
ここで一番問題となったのは、担当の裁判官によって、売却許可を認めるか否かについてかなり温度差があるという点です。
私が担当した所有者不明土地については、所有不明者が全部で3名でしたので、2人の裁判官が担当して審理することとなりました。そのうちの1人の裁判官については売却許可について割と理解のある方でしたので特に問題となることはなかったのですが、もう1人の担当裁判官が、売却許可を出すことに断固反対の立場で、曰く、所有者不明土地家屋管理命令は、売却を前提とした制度ではないからというのが主な理由のようでした。私は直接、その裁判官からお話を聞いたわけではなく、担当書記官を通して聞いたので、それ以外にもいろいろな判断がその裁判官にはおありだっとろうとは思いますが、その裁判官の考え方は、端的に言うと「これは売却を前提とした制度ではない」という点に集約できるようでした。

たしかに、何でもかんでも売却許可を認めてしまうといろいろな弊害が出てくるのは、私でも容易に想像できます。たとえば、全国の所有者不明土地家屋について、次々と管理命令を申立て売却することによって不動産業者が売買を仲介すれば、不動産の現実の所有者(売主であって所在不明者ではない方)とその不動産を買いたいと思っている買主との間で売買契約を締結して、不動産の名義(所有権)を移転させるというのが、不動産売買の本来あるべき姿ですから、この所有者不明土地家屋管理命令を利用することで、そうしたこと本来あるべき不動産売買の形を飛ばしてしまう(形骸化させてしまう)と、それによって不利益を受ける方、要するに真の不動産所有者の利益が大きく損なわれる恐れがあるというのも弊害の一つでしょう。
所有者不明といっても、本当に所有者がいないのか、所有者はいるがその所在をつかむことができずにいるだけでもしかしたら将来その所有者が見つかる可能性もあるのですから。

といっても、今回私が担当した土地については、その所有者はすでに亡くなっており、その相続人全員が相続放棄をしたため現実に真の所有者が現れる可能性はありませんでした。また、対象の土地は農地であって、その農地の近隣地区で同じく農業を営んでいる方たちが、より農業生産力を上げるための公益事業を行っている地域に所在したのです。
こうした背景事情のある中で、売却許可が認められなければ、その地域の農家の方々は多大な損失をこうむりますし、ただでさせ、食糧の多くを外国からの輸入に頼っている日本において、農業で頑張っていらっしゃる農家の方のやる気をそぐことになりかねず、ことごとく許可を認めなければ、だれも農業などしなくなるでしょう。ただでさえ、農地を相続した方の多くが相続放棄を考えているという現実があり、私の事務所にもそうした相談が多く寄せられているのです。
そもそも、売却許可を前提とした制度でないということを盾に、売却許可を認めないならば、管理人に所有者不明土地家屋の売却許可の申立て権限が制度として認められている意味がなくなってしまいます。

そうしたことを、裁判所の書記官と入念に打ち合わせ、何度か売却許可を認めてもらうための上申書を裁判所に提出して、今年の1月にようやく売却許可が認められ、その地区で農業をされている方にその土地の所有名義を変えることができました。

すべての手続きが終わってから間もなく、依頼者の方と山口県の担当者とが私たちの事務所に来られ、所有者不明土地管理命令と売却までの流れについて簡単に説明してもらいたいとおっしゃられたので、説明しましたが、その際、依頼者の方から、中国四国農政局の担当者の方が、同局管内で、所有者不明土地管理命令を申立て、さらに売却許可を得たうえで第三者名義に変更できたのは今回の事例が初めてだそうです。
その事とはそれほど関係がありませんが、同様の事案について、別の地域の農地について所有者不明土地管理命令を申立てております。

もし、所有者不明土地でお困りの方がいらっしゃいましたら、ぜひご相談ください。ただし、上に書いた事例であればともかく、単にそこの土地を手に入れたいというような理由の場合は、かなりの困難が伴うこととなりますので、その点は十分にご留意願います。

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