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所有者不明土地家屋管理制度(その2)
こんにちは。山口市役所近くで司法書士をしている山本です。
前回、所有者不明土地家屋管理制度について触れましたが、今回はこの制度が非常に使いにくい制度かもしれないということを説明させていただきます。
この制度そのものがすべて使いにくいというわけではないのですが、その不動産の売却を考えて検討している方はよく考えられることをお勧めします。単に、そこの土地や家が欲しいからこの制度を利用して、所有者不明土地家屋管理人と売買契約して売ってもらおうというだけでは売買という目的を達することができない可能性があります。
それというのも、この制度は「本来は所有者がいるのだけれども、その所在が分からないために、その人に代わってその不動産を管理人に管理させる」というのが目的だからです。そうした場合に、いずれ現れるかもしれない所有者が、実際に現れたときには自分の不動産を失っている可能性があります。もちろん、不動産を失う代わりに売却代金を受け取ることはできるのですが、不動産というのは一つ一つに個性があるため、まったく個性のない金銭というものでは代替できない場合も多くあります。
ですので、この制度の管理人の権限は、単純にその不動産の価値を損ねないように管理するだけにとどめられていて、売却をする権限は元々ありません。何らかの事情でその不動産を売却した方がいいとなった場合には、裁判所に別途、売却のための許可をもらう必要があります。ただ、先にも書いたようにこの制度が売却を本来の目的としていない制度であるため、その許可の申立てにあたっては、裁判所がかなり厳しく判断するようです。最終的には、その申立てを処理する裁判官の判断ですので、一概に難しいとか厳しいとは言えないと思いますが、単純にそこの不動産を購入したいという動機だけでは許可が下りない可能性が高いと思います。
今回、私がおこなった所有者不明土地家屋管理制度の申立てについては、売却を前提としたものでした。ある土地を買い受けたい人からの依頼です。ただし、単純にそこの不動産(今回は土地でした)を買いたいというものではなく、その土地を含むあたり一帯で、農業経営をうまく進めるための事業が行われており、その事業を進めていくためにきちんと所有者がいないといけないということで、買い取りたいという人からの依頼を受けて申立てをおこなったのです。ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、山口市は一応、市ではあると言え地方都市によくありがちな中山間地域を多く持つところです。今回の対象土地があるところも農業が盛んなところです。それで、農業経営を円滑に行うための土壌改良事業が計画されていました。単純に今回の土地を購入したいという訳ではなく、地域の人たちにとっても許可が下りるか下りないかが大きく注目されることとなりました。何しろ許可が下りないと、その地域全体の土壌改良事業が進みませんので。
それで、この所有者不明土地家屋管理制度の申立てをおこない、申立てが認められた後に引き続き、売却のための許可を裁判所に申し立てたのですが、裁判所の書記官の方から、許可を得るのはとても難しいので、売却するための必要性などの理由を説明してもらいたいなどと、いろいろ注文を付けられました。
ただ、気を付けたいただきたいのは、今回の裁判官や書記官の方は、決して売却のための許可を与えるつもりはないということではなく、売却をする特別な事情があるのか?正当な事情があるのか?など、本来は所有者のいる土地を、本当に売却する必要や理由があるのかなどを慎重に検討されたようで、特に書記官の方については許可が下りるようにいろいろとアドバイスをいただきました。
売却の許可を得るための申立書や上申書など、かなり詳細に売却するための正当な理由や事情を記載して裁判所に提出し、なんとか許可を得ることができましたが、一番最初の依頼から売却のための許可が下りるまでゆうに半年はかかりました。
所有者不明土地建物管理制度や、その不動産を売却するための許可申立ては、すべて裁判所で行わなくてはならず、通常の行政手続きと違って、その時々により結果が異なります。これは裁判官の独立性とも関係するのですが。
今回の話のまとめとしましては、ある土地や建物を購入するための正当な理由や必要性が乏しく、単純にそこの不動産を手に入れたいから、この所有者不明土地家屋管理制度を利用しようと考えている方は、申立てを行う理由を慎重に検討していただきたいということです。不動産の所有者が所在不明であったり、いなかったりすれば管理人自体は、裁判所により選任されるかもしれませんが、実際に売買をしようとなると、そのための裁判所の許可が下りないという可能性があります。そのため、売却を念頭に置いておいた方は当初の目的を達することができずに、単純に管理人に支払う報酬を支払い続けないといけないということがあるのです。
法務省や国土交通省のホームページには、この制度を申立てることで不動産の売却が可能となりますというようなことが書いてあったりしますが、この制度の本来の目的が「本来は所有者がいるのだけれども、その所在が分からないために、その人に代わってその不動産を管理する」というものですので、必ず売却が可能となるわけではないという点については、よく注意する必要があります。
以上、この制度について検討されている方の参考になればと思います。